「…誰…?」
ぼんやり靄がかかった頭がクリアになって最初に目についたのは何処か見知らぬ場所の天井。
そして心配そうに声をかけてくる見知らぬ人。
綺麗な…ひと。
人間じゃありえないくらいに。
「優姫、大丈夫?倒れたって聞いてすぐに帰って来たんだ」
「…誰…?」
「優……姫……?」
その人の瞳が見開かれる。
「僕のこと分からないの?」
「……ご、ごめんなさい」
顔を歪めて悲しそうな表情をされて、私は居たたまれなくて俯けば、
その人は私の頭を優しく撫でながら大丈夫だよとふわりと笑ってくれた。
それでもあの悲しそうな表情が、頭から離れなかった。
*****
「全生活史健忘…優姫が…ですか」
「ええ。外傷も無いようですから、おそらくは心因性から来るものでしょう。
自身に関する記憶は失われていますが社会生活する上では何ら問題は無いです。
しかし治療法と言えば…」
あのあと、優姫を連れて病院に連れて行き診察の結果は
歓迎されるべきものでは無かった。
医師が告げる言葉は僕の頭には既に半分以上入って来てはいない。
信じられなかった。
優姫が記憶喪失だなんて。しかも心因性となれば精神的なモノ。
どうして気付いてあげることが出来なかったのか。
誰よりも優姫の傍に居たのに。
いや、少なくとも気づいていたと言った方が正しいかもしれない。
ただ、まさか記憶喪失になるなんて思わなかっただけで―――
医師の説明を呆然としたまま聞いて辞して廊下に出る。
一晩は様子見と言うことで、優姫は入院しなければならない。
まさか君をヴァンパイアに戻した後にも、あのような
―――知らない者に向けた不安気に揺れる瞳に出会うはめになるとは
――それが僕の犯した罪だと言うのだろうか。
「優姫……」
そう呟いた枢の声は病院の静かな廊下に吸い込まれて行ったが
その声を拾ったものは居ない。
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