――枢side――
優姫が居なくなって数日が経つ。たった数日。
それだけだと言うのに屋敷がひどく寒々しい。
ただ一人が居ないだけで、あの頃を彷彿とさせてしまうようで
あまり眠れない日々を過ごす。
「優姫……」
君の行きそうな場所は、なんとなくだけど分かる。
それに君の気配を僕が分からないはずも見逃すはずもない。
ただ、そうだね…
優姫の気配を見つけて、すぐに君の傍に行けなかった。
錐生君の気配がしたからね。
わざわざ錐生君の住まう集合住宅まで押し掛けて優姫を取り戻そうとはしない。
事を荒立てたくない。
それに優姫も気付いただろう。僕の気配と、捜索の手がこの近辺に及んでいることを。
だからこそ錐生君のところへ咄嗟に逃げ込んだ。
たとえ敵同士だとしても…君は彼に助けを求めるんだね…
少し寂しいよ…
*****
翌朝、錐生君と別れひとり歩く優姫をそっと見守る。
僕の気配がしないのに、ホッとしているみたいだけれど
君の姿が肉眼でとらえられる位置にちゃんと居るんだよ。
でも優姫が気付かないのも無理はない。
僕は気配を消しているのだから。こうでもしないと君は逃げてしまうだろうから。
少し歩けば、反対側の通りに藍堂と架院の姿を見つけ
慌てて姿を隠そうとしたようだけど遅かったみたいだね。
「枢様がどれほど心配なさっているか分かっているのか!?」
藍堂たちに捕まり戻るよう促される優姫だけど、まだ戻りたく無いか…
逃げるように走り出す優姫。
優姫を連れ戻せるとはあまり期待して無かったけど…仕方ないね。
僕が直々に君を連れ戻すしかないようだ。
君は藍堂の声と人目を気にしているようで、前をちゃんと見ていない。
クスっと笑うと優姫が僕の腕の中に飛び込んで来れる位置に立つ。
もちろん気配は消したまま。
案の定、僕にぶつかってよろけた優姫の腰を支えて逃げられないようにする。
「ごめんなさい…前見てなくてっ」
そこで漸く僕に向けられた視線。優姫は信じられないと言った表情をしていて…
「ど…どうしてっ」
「ひどいね、優姫は僕に会うのが嫌?」
「ち…違いますっ…ただ…私…」
言いながら弱々しく放してと言う優姫に、
そんな力じゃ僕の腕から逃れられないよと教えてあげようか?
優姫の腰に腕を添えてない反対側の手で、頬を撫でれば
若干紅く染まった頬と戸惑いながらも
僕をまっすぐにとらえる君の姿が視界に映った。
「場所変えて話を聞くよ。逃げないで着いて来るんだよ?」
「…………あ」
そう言って拘束を解き、先に歩き出す。
もしかしたら逃げ出すかもしれない。けれど僕には確信があった。
優姫は逃げないと言う確信が。
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