雨の唄を聞く眠れぬ夜
ザァ…――
窓の外から地面に降り頻る雨の音が、絶えず聞こえる。
優姫は、ベッドに丸くなり額に熱冷ましシートを貼り付けたまま荒い呼吸を繰り返していた。
純血種は、と言うよりヴァンパイアは通常滅多に体調を崩さないのだが、
ここの所――考え事をしてあまり眠れていなかったのもあって体調を崩してしまったのだ。
心配そうに、私の看病をすると言い張るおにいさまの表情が浮かぶ。
おにいさまは、
今此処にはいない。
元老院が主催したどうしても欠席出来ない夜会に一条センパイ達と出席しているから。
ザァ…ザァ…―
雨の音が響く。
熱冷ましシートは熱を吸いとり、カラカラに乾いたのを感じとり
優姫は用途を為さなくなった熱冷ましシートを額から外す。
代わりの熱冷ましシートに張り替えようと腕を伸ばしたものの、
高熱のため視界がぐらつきベッドに倒れこむ。
が、いつまでたってもベッドのふかふかした感触が感じられず、ゆっくり瞳を開けば
「かな…め……おに……さま」
「優姫…寝てないとダメだよ」
夜会に行ったはずの兄が自身の身体を受け止めていて。
何故、ここに!?今、夜会に行っていらっしゃるのでは?
と、言う考えが頭を過るも
熱に支配された気だるい体調では思うように言葉を紡げない。
それより、体温の低い枢の冷たさが優姫にとっては心地よかった。
「僕が傍にいるから。ゆっくり寝て?」
「うん…おにいさま…ありがとう」
ゆっくりと寝かしつけられ、額に触れるのはひんやりとした熱冷ましシートの感触。
手に感じるのは、おにいさまの心地よい体温。
それらに包まれ、優姫は
眠りの世界に旅立つ。
それまでの荒い呼吸が嘘のように安定したリズムで
呼吸を繰り返している姿に枢は安堵の吐息を吐く。
優姫が眠りに落ちて暫くすると従者の星煉が気遣わしげに声を発す。
「枢様…」
「ああ、星煉。優姫は、もう大丈夫だよ。教えてくれてありがとう。君ももう休んで良いよ」
「畏まりました、我が主」
言うと、極力音をたてぬよう注意を払って星煉は部屋を辞した。
星煉から優姫が苦しんでいると報告を受け、夜会の挨拶もそこそこに辞してきたのだ。
僕にとっては、元老院主催の夜会なんて、どうでもいいんだ…
君だけがいてくれれば
それで……。
翌夕、目覚めれば既に熱は引き風邪は治っていた。
ふと横を見れば、優姫と手を繋いだまま伏せて眠る枢の姿。
「ずっと…着いていてくれたんですね…おにいさま…」
嬉しくもあるが、疲れきって眠る枢の姿に…自分の不甲斐なさを感じてしまう。
私が、ちゃんとしていれば、熱を出す事もなくおにいさまにも負担をかけたりしなかったのに。
ごめんなさい…おにいさま。
手をかけてしまって…
本当にごめんなさい。
それでも私はおにいさまが、貴方が居ないと寝られなかった。
おにいさまは私にとって
何よりの薬だから。
「ごめんなさい…おにいさま」
「それは何に対しての謝罪?」
「お、おにいさま…起こしてしまいましたか…」
「いや、謝らないで。優姫の声で目覚めるなら構わない」
向けられる眼差しにドキンとする。
おにいさまは優しい。
私を甘やかしてくれる。
でも、それが私は嫌なんです。
おにいさまのお荷物になっている気がして、何の役にも立てない自分に嫌気がさしてしまう。
そう言えばおにいさまは…
「そんなことはないよ、優姫。君の存在は何より僕には必要なんだ…
優姫が拒否したとしても僕は優姫を離さないよ。だからそのままの優姫で居て」
「…おにいさま」
気にやまないでと。
そんな風に言われれば今まで心を覆っていた靄は晴れてしまうんだから不思議。
貴方の言葉は、存在は私を何よりも安心させて守ってくれる。
思い悩んでた事が
バカらしく思えるほどに…
もう…自分の純血種としての至らなさに思い悩まない。
私は私らしく
おにいさまのお傍に居る。
おにいさまが望んでくれる限り、
ずっと。
*end*