傘を回す後ろ姿
パシャパシャと水溜まりの水が跳ねる中、先を行く優姫は振り返りながら
後ろから同じく傘を差して着いてくる自身の兄の名を呼ぶ。
「おにいさま!早く、早く!」
「優姫、走ると危ないよ。それに傘をちゃんと差さなきゃ濡れるから」
「はぁい」
優姫は咎められシュンとなって大人しくなるが、
数分して視界に入った目的のお店を前にして
注意したばかりと言うのに走って行ってしまう。
「優姫!」
「クスッ…優姫にとっては何もかも新鮮なんだもの。仕方ないわ」
「少し大目に見てやりなさい、枢」
不意に聞こえた第三者の声に枢は声がした方を振り向けば、
電柱に隠れるかのように傘を差した両親の姿。
仲良く相合い傘をしている。
しかも樹里の手にはカメラなるものがあるからして、
優姫の姿でも撮っていたのだろうと言うことは窺えるが……
「お父様…お母様…」
仮にも純血種
それも玖蘭の名を持つもの。
他人には見せられぬ両親の優姫溺愛を垣間見て枢は溜め息をつく。
自分とて優姫を溺愛していると言うのは否定しないが、この際それは棚にあげよう。
しかもだ。
優姫の後をこっそりつけ、カメラにおさめながら、イチャイチャラブラブしている両親の姿。
仲が良いのは悪い事では無いから、別段構わないが、場所を考えて欲しいと思う。
仮にも、今居る場所は公共の道路であって自宅では無いのだから。
そして、その両親達の更に10mくらいだろうか…離れた場所には
この場所に似つかわしくない黒のスーツにサングラスをかけた監視の姿もある。
純血種を尊く思うのは良いが、あまりプライベートに関与して欲しくない。
だが、幾らこちらが断ろうと彼等は元老院の指示で動いているのだから、どうしようも出来ない。
半ば諦めて、
枢は優姫に再び視線を戻せば…
「……優姫!」
「おにいさま……」
躓いて転けかけている姿を見て、枢は思わず傘を投げ出し駆け寄り転けかけた優姫を支えた。
慣れない雨と、濡れた道路にどうやら滑ったと言った所だろう。
慣れない雨と言うのは、優姫は今まで地下で暮らしており、地上に出たのは極最近の事なのだ。
「大丈夫かい?僕に掴まって…」
「うん…ありがとう、おにいさま」
支えられた状態から、
立ち直ると優姫は…
「おにいさま…傘…」
「ああ…何処かに行ったみたいだ。優姫、入れてくれるかい?」
「うん。はい、どうぞ…おにいさま」
と、優姫の傘を枢は受け取ると傘をさしながら二人仲良く店まで向かう。
それは、俗に相合い傘と言うものだが優姫がそのことに気付くのは、もう少し先のこと。
そして、優姫に気付かれないよう注意を払って
周囲に視線を向けた枢は邪魔するとどうなるか分かっているよね?的なオーラを発すると
通行人達は慌てて視線を他に向けたのだった。
おまけ
「ねぇ…悠…これ枢の傘…」
「持って帰ろうか、樹里」
「ええ…」
と、投げ出されたままの枢の傘を拾う両親の姿が有りました。
「本当に枢は優姫の事になると周りが見えなくなるんだから」
「否定は出来ないね。でも僕達の子だから仕方ないよ、樹里」
「そうね、悠」
玖蘭家の中で一番優姫を溺愛しているのは枢だと言うことを初めて垣間見た
10mほど後ろに居た監視達は、何も言えず互いに顔を見合わせたのだった。
これは、そんな雨の日の出来事。
*end*