君の目が醒めたら

正午過ぎ。
外では普通科の生徒達が乗馬をする声が遠くからするのを聞きながら、
枢は傍で眠る愛しい優姫の髪に指を絡ませた。
少し前まで人間として過ごしていた少女は、
10年の年月を経て自分の元に取り戻す事が出来たのだ。

だが、壊れ行く優姫を放って置けなかったと言うのは建前でしかない。
本当は、誰よりも一番優姫の記憶を取り戻し、自分の元に取り戻したかった。
僕にとって優姫と一緒に寄り添って生きれなかった10年は、
あまりにも長く記憶のない優姫を見るたびに悲しんだ。
けど、僕に光を与えてくれたのも彼女。

そして我が手に取り戻せした時から、もう二度と手放すものかと誓った。
あんな悲しい想いなんて何度もしたくはないから。

ならば、優姫にとってこの10年は、どんなものだったのだろう。
理事長がいて、錐生君がいて、そして普通科の友達と過ごした日々は
優姫にとって何をもたらしたのだろう?

陽の下で明るく楽しそうに笑う優姫を見るたび、元気を与えてくれた。
美しくなる優姫を見守ることが出来て、嬉しかった。君の成長が何よりも…―――

でも、ヴァンパイアに戻った優姫が陽の下で元気に走り回る姿を見ることは、もう叶わない。
それはヴァンパイアである己自身が一番分かっている。
陽の光を浴びたら灰になる訳ではないけど、ヴァンパイアにとって
――夜に生きる生き物にとって太陽の光は眩しい。

ならば、月の光に照らされ 輝く優姫を見ればいい。
月の光は、僕達にとって 害を及ばずモノではない。
むしろ夜こそ 僕らヴァンパイアの時間。
優姫は、どこにいても輝き、温かみを与えてくれる愛しい存在。
ねぇ、優姫。
僕の選択は正しかった?
なんて聞くのは愚かだろう。

聞かずとも分かるよ。



だから、優姫――…
これからも僕と一緒に永い永い時間を共に寄り添って生きよう。
僕らの両親のように……。

「かなめ…おに……さま……大好…き」
「クスッ…僕の夢でも見てるのかな」

寝言を言う優姫が可愛らしいと思うけど、夢の中にいる自分にも嫉妬してしまう。
ああ、後数時間したら夕刻。
優姫が微睡みから目を醒ます時間だね…

それまで僕は幸せそうな優姫の寝顔を眺めていても構わないよね…。
そして君の目が醒めたら伝えよう。
僕の優姫に対する想いを言の葉に乗せて……


*end*