人工呼吸と嘯いて
「…………んっ」
唇に、口の中に感じる自分じゃない人の感触に沈んでいた意識が浮上する。
瞳をゆっくりと開けば、心配そうなおにいさまの顔と
周りにはホッと一安心した一条センパイ達の表情。
ただ、一条センパイと支葵センパイ以外のセンパイは
私とおにいさまを見ないようにするかのように顔を横に背けてたけど。
「優姫…大丈夫?」
「え、あ…はい…大丈夫…です……あの……私……」
何でこうなってるのか状況が分からない優姫は
訳の分からないまま大丈夫≠ニだけは答えれた。
そんな優姫に気づいてた枢は、分かるように優しく説明の言葉を紡ぐ。
「プールで溺れたんだよ、覚えてない?」
「…………あ」
言われて優姫は思い出す。
今日は休日と言うこともあり、
優姫達は黒主学園の隣町に新しく出来たばかりのプールへ泳ぎに来ていた。
昨夜無理をさせたし、疲れてる時に泳ぐのは良くないよ…と
おにいさまは言って下さったのに
私はそんなに疲れてないから少しだけ≠ニ言って
泳いでいた矢先、水に足を取られ溺れたのだろう。
「優姫…無茶をしないで。僕の心臓もとまるかと思ったよ」
「ごめんなさい…おにいさま」
シュンと項垂れる優姫は、
またいつでも泳げるんだから今日は帰ろう≠ニ言う枢の言葉に素直に従う。
立ち上がる際に
優姫の耳に小さく聞こえた言葉の最後の方は無理矢理聞かなかった事にした。
(もう危険なことしないで…
じゃないと僕は優姫を閉じ込めなくちゃならない…)
おまけ。
「あれって人工呼吸って言うより…人目を気にせずに優姫ちゃんにキス出来…」
「一条……黙ってくれないかな?」
「……うん…ごめん…枢」
「今日見たことは忘れるように。ああ、皆にも言っておいて」
「わ、分かったよ…枢」
「ありがとう。一条…頼むよ」
優姫を助ける為の人工呼吸なんて言い訳に過ぎないかもしれない。
だって、僕はあの時優姫にキスしたかったんだ…
君は、そんな僕の事には気づかない。素直に人工呼吸と思うだろう?
真実がどうであれ、良いんだ。
でも、もう無茶をしないで欲しい事を本当に願うよ…
*end*