罰ゲーム

「………えーと」

夕刻、学校への登校時間。
月の寮のロビーへ続く階段に近い廊下で私は目を疑った。
だって誰が想像出来る?
今時、バケツを持たされて廊下に立たされてヴァンパイアがいるなんて……。
だから私は、話しかけられるまでその場所に呆然と突っ立っていた。

「優姫様、おはようございます」
「早園センパイ。おはよう」
「本日は枢様はご一緒では無いのですか?」
「あ……置いてきちゃった」

聞かれて優姫は、己が兄の存在を思い出しヤバイと焦った。
瑠佳の言うように優姫は、いつも登校時には枢と一緒に寮のロビーに降りてくるのだが
今日に限って一人でいたから珍しいと思いつつ訊ねたのだろう。
最初は、瑠佳の思うように枢と一緒にロビーまで向かっていた優姫だったが、途中で忘れ物をした事に気づき、
枢は私に代わって忘れ物を取りに戻ったのだ。
もちろん私が忘れたのだから、自分で取りに戻りますと言ったけど
「良いから優姫は、ここで待っていて」と言われれば甘えるしかなくて…―――

廊下で待っていた優姫だったが、ふと耳に聞き慣れた声を聞き、
様子を見に来たら藍堂がバケツを持って立っていたわけなのだ。
その結果、 枢を置いてきてしまったが…。

「宜しいのですか、優姫様……あら?誰かと思ったら英じゃない。貴方ほどバカが似合う者は居ないわね。
優姫様…参りましょう?ここで英のバカに関わっていると優姫様にうつりますわ」
「な!瑠佳!聞き捨てならんぞ。この天才の僕にバカなど言うなんて覚悟は出来ているんだろうな」
「クスッ…何の覚悟かしら?でも今の貴方に何が出来るのかしらね」
「何を〜〜」

目の前で喧嘩と言うか…嫌味の応酬を止めない二人に、
おにいさまと零もこんな感じだったことを思い出し優姫は悲しくなった。

誰か止めなければ、ずっと続くだろうと身を持って知っている優姫は、
仲裁に入ろうと思うが自分が入ったら余計にややこしくなる気がして助けを求めようと周囲を見回す。
が、関わりあいになりたくないのだろう。他の夜間部生達は視線を合わせぬように慌ててそらした。
唯一、視線があったのは 架院くらい。

「架院センパイ……早園センパイと藍堂センパイを止めて欲しいの」
「はぁ…分かりました」

暁は、溜め息をつきながらも仕方なく藍堂達を止めるべく向かおうとしたのだが…
それよりも一瞬早く、

パリーン…

「……え?」

近くにあった窓ガラスが割れた。
そして近づくこの気配は、間違えようのない純血種の……愛しいひとの気配。

「おにいさま…」
「「枢様……」」
「玖蘭…寮長」

星煉を引き連れた枢が、その場に姿を現すも纏うオーラは果てしなく暗い。
枢のバックにこの世のモノではない何かが居そうなくらい……
だからこそ、その場に居たものは――星煉を除き皆顔色が真っ青。
しかし枢は気にした風もなく、優姫の方へ近づく。

「……優姫?僕は、ちゃんと待って居てって言ったよね?」
「……う…………はい」
「じゃあ、なぜ先に行ったの?」
「そ、それは……ごめんなさい」

瑠佳の時は、素直に理由を話せた優姫だったが、極寒のオーラを纏う枢を目の前にしては
本当の理由を言えるはずもなく、ただ謝るしかできない。

「優姫…後で、ゆっくりと話し合おうか」

何故か、ゆっくりの部分を強調して言う枢に優姫は顔が更に引き攣る。
逆らえないと早くも悟った優姫だったが、
枢の視線が藍堂達に向けられた一瞬の隙をつき一目散にロビーへ降りていく。

「優姫」
「反省しましたのでお話は後日と言うことで!」
「まったく…仕方ないね。……さて、君達は何をしているのかな?」
「か、枢様…あの、これは」

問われて申し開きをしようとした藍堂だったが、先刻枢から仕置きをされたばかりの手前、
申し開きなんて出来るかと言えば出来ないわけで、
ふと横を見ると先ほどまでこの場所にいた瑠佳と架院の姿がない。

「あいつら…逃げた」
「藍堂…話聞いてるかな?」
「わ…す、すみません枢様」
「先ほどと言い、藍堂…君は反省する気がないみたいだね」
「そんなことは…!

か、枢様ぁぁぁ〜

直後、月の寮に謎の雷が落ちた。

唖然とし、声も出ない夜間部生。
それを無視するかのように枢は何事もなかった風を装い、同じく唖然としたままの優姫の傍に行くと…

「そろそろ登校時間だ。優姫、行こうか」
と、優姫の手を引きながら 寮の扉を開く。

後日、黒主学園では謎の落雷について噂が飛び交ったものの普通科の生徒達が知るはずもなく、
真相を知るであろう夜間部生達は誰も口を開こうとはしなかった。

それから、一ヶ月ほど黒主学園に藍堂の姿が見えなかったとか…。
真相は闇の中。


おまけ


中には、真相について語れる者も決して居なかった訳では無いが、

「発生源は枢だよね」
「……ですよね」
「一条?優姫?何か言ったかな」
「「何も」」
と、枢の背後にみた黒いモノに怯え口を閉ざしたのだった。

唯一言えるのは枢を怒らせたら最後、無事では済まされないと言うことだけ…―――


*end*