「はぁ…おにい……さま」
「優姫…僕を誘ってるの?」
キスの後の余韻に浸りながら、枢を見上げた優姫は発せられた言葉に首を傾げた。
誘ってるの意味が分からない。
そんな優姫に枢は、困った子だね…と優姫の頬を撫でながら微笑む。
好きな子に涙で潤んだ瞳に上目遣いで見上げられて、理性を保てるなんてできないだろう。
と、言った所で優姫には、その意味は伝わらない。
だからこそ、優姫は真っ赤な顔をして首を横に振って否定するのだ。
「なっ…誘ってません!」
「そうかな?だったら、どうしてそんな顔で僕を見るの?」
「そんな顔って…?」
やっぱり彼女は分かってない。
分かってないからこそ、 無意識の行動に自分は ハラハラしてしまうんだ。
それは単に自分以外にそんな瞳を向けてしまうのではとの想いからに他ならない。
「はぁ…」
「かな……め…おにいさま……?」
汚れのない瞳を向けられた途端、遂に枢の理性の糸が切れて優姫をソファーに押し倒しキスを贈る。
「んっ……かな……おに……まっ……」
「……はっ……優……姫」
「良い雰囲気のところ邪魔して悪いんだけど…枢…ここ寮のロビーだから…」
「い、一条センパイ…」
深い口付けに優姫は、枢に身を任せてしまいそうになるけど
不意にかかった第三者の声に慌てて枢を押しやる。
甘い雰囲気を邪魔された枢は、物凄く不満気に拓麻に視線を向けた。
「……一条」
バックに黒い空気を醸し出していることに気付いた拓麻は、「ひっ」と怯えた声を上げる。
ここに優姫が居なければ、間違いなくロビーにある調度品の一つや二つ軽く壊れているだろう。
それにだ。
本来、寮のロビーは恋人同士が甘い雰囲気になるような場所ではないはずだ。
イチャイチャするなら部屋で、それはもう誰にも邪魔されることなく出来るだろうに。
何で注意した僕が咎められなきゃならないのかと泣きたくなった。
「優姫……続きは部屋でしようか」
「え、ぁ…おにいさま…」
それでもソファーから立ち上がり、優姫を連れて階段を登っていく枢を見て
拓麻は、これで気兼ねなくロビーを通れるだろうとの溜め息をつく…―――
今まで通るに通れずロビーに続く廊下で居心地悪そうにしている
夜間部生達もまた拓麻と同時に安堵の吐息を吐いたのだった。
誰しも純血の君の怒りに触れたくないと思うのは当然だから。
*end*