お姫様抱っこ
「お、おにいさま…あ、あの…ひ、一人で歩けますから降ろしてっ」
「だめだよ。怪我してるんだから…」
そう言いながら、優姫をお姫さま抱っこしながら月の寮まで歩く枢。
純血種なんだから、怪我をしたとしても酷い怪我でない限り直ぐに治る。
純血種は治癒能力もずば抜けているから、優姫が怪我した右足も
既に血は止まっており、彼女の言うように歩けるのだが…
枢は一向に降ろしてくれる
気配はない。
月の寮に向かう途中、必然的に夜間部生徒の前を通るのだが、
その向けられる視線に気づき優姫は顔を俯かせる。
そんな優姫の姿を枢は見ながら、クスッと笑って…。
「お、おにいさまっ」
「暴れたら落ちるよ?」
「うっ……」
尚も、降りようとした優姫だったが枢の【落ちるよ?】の言葉に、素直に腕の中で大人しくなる他なかった。
未だに感じる他人の視線。
普通科に在籍してた頃ならば、絶対に嫉妬の視線を向けられるのだが今の優姫は純血種の姫。
嫉妬の視線を向けられる心配もなく、それよりも普通科の男子生徒は元より女子生徒にも人気だったりする。
普通科と夜間部の入れ替え時には以前にも増して門の前は
男女問わず人が溢れ帰り、それを零が一人で押さえつけている状態。
優姫も普通科在籍の頃は、風紀委員として零と同じく普通科の生徒達を抑えていたけれど、
夜間部に移動した後は風紀委員の活動は一切してない。
それもそう。
彼女は枢同様純血種。
尊ぶべき純血種に警備などさせるわけにもいかない。
で、何で怪我したかと言うと…
その押し寄せる普通科生徒に取り囲まれ、もみくちゃにされて転んでしまったと言うわけだ。
零が普通科生徒を止める隙もなく、枢や夜間部生も優姫を守ろうとしたけれど、
それ以上に優姫に押し寄せる普通科生徒の勢いが強かった。
『優姫(様)!』
『……っ』
突然、漂う甘い香り。
紛れもない、純血種の…――
「………………」
私が怪我したときのおにいさまは本気で怖かった…と言うのは当然すぎるけど。
周りが、騒ぐ中…おにいさまは私をお姫さま抱っこしながら、こうして月の寮の自室へ向かっているわけ。
それから、月の寮の自室へついた枢と優姫。
当然ながら、おにいさまは私を降ろしてはくれだけど、今度は抱きしめられたまま暫く離してもらえず…
『怪我したお仕置きだよ』と称して、甘いお仕置き(キス)をされたのは言うまでもない。
おまけ。
「……おにいさま」
「どうかした?優姫」
「いえ…あの…何もここまでしなくても良いと思うんですけど…」
そう言って周りを見回す優姫―――の周囲は普通科生を一切寄り付けぬよう夜間部生が四方を固めていて――
もちろんそれは枢が指示した。
「これくらいしなきゃダメだよ。また怪我しても良いの?」
と、言われれば怪我したくないから…
「もういいです」
と言うしかなく…
優姫(と枢)の周囲は黒主学園を卒業するまで夜間部の鉄壁の守りは解かれることはなかった。
(おにいさま…過保護過ぎなのもどうかと思います…)
(優姫の為だよ。
それに君に何かあったら僕が平気でいられないんだよ)
*end*