相合傘

しとしと。
外では雨が降っている。

いつだったか、おかあさまからおとうさまとおかあさまの相合傘の話の思い出を聞いた事がある。
子供ながらに羨ましかった。
私もいつか好きな人と相合傘したい…って思ったなんて今考えると恥ずかしい。

「優姫?…帰るよ」
「え…あ、はい」

夜間部の授業が終わって、おにいさまに話しかけられるまで
ずっと考え込んでたらしく授業が終わった事にすら気付かなかった。
おそらく、おにいさまが声をかけて下さらなければ、まだ考え込んでたと思う。

教室を出て、入り口に向かう途中…おにいさまに、さっき考え込んでいた事について訊ねられた。
たいしたことじゃないけど…と言っても私が話すまで、おにいさまのことだから気にするはず…。
私は仕方なく諦めて口を開いた。

「昔…おかあさまから聞いた…相合傘の話…です…」
「そう…優姫は相合傘したい?」
「……え、そんな……は、恥ずかしいですよ」

慌てて両手を左右にふって拒否すれば、おにいさまは何故か悲しそうな表情。
何だか自分が悪い事をしたような錯覚に陥ってしまい…

「えっと…私…恥ずかしいですけど、おにいさまとなら…相合傘したい…って思いますよ…」
「良かった。じゃあ、優姫。今から相合傘して帰ろうか」
「…………へ?」
「僕となら相合傘しても良いんだろう?そう言ったよね……」

微笑みながら、傘を出すおにいさま。
校舎の入り口から外を眺めれば、ざぁざぁと音をたてて雨が地面に降り注いでいる。
先ほど言ったことは本心だったし嫌ですと言ってしまえばおにいさまの機嫌が悪くなって
夜間部の皆…特に藍堂センパイに害が及ぶのも目に見えていて…
さすがにそれは理不尽過ぎると思い、差し出された傘の中に優姫は入った。

「ほら、もっと寄り添わなきゃ濡れるよ。優姫?」
「う、あ……は、はい」

そう言われて、頬を紅く染めながらも傘の中でおにいさまに寄り添った。


ザアザア

周りは雨の音。煩いはずの雨の音…だけど何より煩いのは、自分の心臓の音。
これじゃ…おにいさまにドキドキしてるの知られちゃう…。

「優姫…どうしたんだい?」と問われて、視線をおにいさまに向ければ、
悪戯っぽく笑うおにいさまに全て分かっていると気付く。

「…………おにいさまのイジワル。分かって聞いてるでしょう」
「そうだね…優姫が可愛いからつい意地悪したくなるんだよ。
でも、お父様とお母様が相合傘した時の気持ちが今更ながら分かった気がするよ」
「おにいさま…」

やっぱり、おにいさまには敵わないなと思った雨の日でした。


*end*