残り香
「優姫、今まで何処に居たの?」
「え…それは…えーと…」
不意に掛けられて声に思わず、肩が跳ねた。
気付かれないように平静を保とうとするけど、おにいさまは…気付いている。
おにいさまに隠し事なんて、出来ないとは分かっていても咄嗟に隠してしまう…―――
それは、後ろめたい事が有るから?
「優姫」
もう一度、名前を呼ばれて。
優しく微笑んでいる、おにいさま。
なんだけど…その一言に…
何故だか逆らえない…
「……は、はい」
「僕には言えない所?」
「い、いえ…そんな……」
だったら言って?
……と言われて。
優姫は、観念したように…ソファに腰を降ろすと渋々ながらも口を開く。
「い、一条センパイの所に…行ってました……」
「そう…それで一条に何の用だったの?」
「それは……幾らおにいさまでも言えないです!ごめんなさいっ!」
言うなり、優姫はソファから徐に立ち上がり、部屋に姿を消す。
パタンと扉が閉まる音がやけに響いて…―――
枢は、優姫が去った方角を見て…どす黒いオーラを放ちながら自身もソファから立ち上がった。
優姫…君が何をしてたかは、大方分かるよ?
でもね…許せないな…
君から…愛しい優姫から他の男の香りがするなんて。
ねぇ…優姫?一条の香りがするほど…何をしてたの?
何も無かったと信じたいけれど、そんなに強く残り香がするなんてどうしてなのかな…。
*****
カチャ
扉を開け、
枢が部屋に入ってくる。
優姫は、枢の姿を視界に捉えると
居心地悪そうに視線をさ迷わせて…。
「……おにいさまっ」
「優姫…怒らないから言って?一条の所で何をしてたの?」
ゆっくり近づいてきた、おにいさま。
何だか、纏う空気が黒いように感じるのは気のせいじゃない…よね。
ギュッと握りしめたクッション。
さ迷う瞳。
だけど、次の瞬間…
それも出来なくなった。
顎を固定されてしまい
嫌でも視線を合わせられる。
交わる視線…
おにいさまの瞳に、揺らぐ私の表情が映っていた。
「優姫」
「う……」
「言えるよね?優姫」
「…………っ」
*****
「どうしよう…かな」
眠る優姫を見ながら、枢は呟く。
あれから、優姫の口を割らせて聞き出した事実。
『おにいさまに妬いてもらいたくて…一条センパイに相談したら…
一条センパイと同じ香水付けたら良いって言われて……』
それを聞いた時、枢は複雑な心境になったのは確かだった。
一条と何も無かった事は、一番良かったけれど……
何故、一条に相談するのかな…君は…。
さらっと…優姫の髪を指に絡ませながら思う…
今後、優姫に余計な事を言わないようにさせなければ……と。
後日、レベル:E狩りに眠いところを駆り出された挙句、
当面優姫に近づく事を禁止された一条副寮長の姿が月の寮にあったとか。
*end*