ハロウィンの悪戯

「おにいさま!あのね…」
「優姫?」

パタパタと音を立てて、嬉しそうに抱きついてくる優姫を枢は優しく受け止めた。
ただ違うのは、服装。
可愛らしい小悪魔の衣装の優姫に何とも思わないはずはない。


「えっとね…Trick or Treat…?」

首を僅かに傾げて拙いながらも言うが、果たして意味の方まで分かってるのだろうか。
ちらりと視線を優姫の後方にやれば、案の定両親の姿。
樹里はキラキラと期待に満ちた眼差し。
悠も枢に向かって頷いた。

だから分かってしまう。
自分がとるべき行動が―――


「ごめんね?優姫。僕はお菓子持ってないんだ。だから…」
だから優姫。僕に悪戯して?――と。
優姫に視線を合わせて言えば、ちゅっと頬に触れる温かいもの。
それは言わずもがな優姫の唇。それだけでも顔が緩みかけてしまう。
しかし次の瞬間、優姫が手に持ってた袋からがさごそと
有るものを取り出した瞬間固まってしまう。



「おにいさまもこれ着て!」
「…………え、優姫。それはちょっと…」

取り出したのは何処で買ってきたのか?と言わんばかりの子猫の衣装。
ご丁寧に尻尾まである。

優姫は外には出れない。
ならばこれを買ってきたのが誰かは察してしまう。

……僕は男なんだけど。
紛れもなく女性用のコスプレ衣装に枢は深く溜め息をつく。


「お母様…優姫にこのような知識教えないでください」
「何の事かしら?それとも枢は可愛い妹の望み叶えられないの。優姫がかわいそうよ」


挑戦的な口調の樹里。こうなってしまっては誰も止められはしない。
だからだろうか。

「……枢、諦めなさい」
と悠から苦笑まじりに言われた言葉があまりにも重くのし掛かったのは。



「おにいさま…いや?」
「優姫、そんなことないよ」

優姫の為だったら僕は何だってするよ。
たとえ心の奥底では着たくないと思ってるコスプレ衣装を着ることになっても。
それが世間一般で言う“女装”と呼ばれる部類に入ろうと。







そのあとは、仕方なしにコスプレ衣装を来たのだが、
面白がった樹里に何枚も写真に撮られてしまった。
挙げ句の果てには、例の写真が最悪なことにリビングに飾られることになり
ハロウィンから数日、部屋に引きこもってしまった枢の姿があったとか。





それから時は流れて十数年後。

「ねぇ、優姫?これ着てくれるかな?」
「…………え、おにいさま?あの、それはそのっ……」

枢が手に持っているのは、過去の記憶を呼び覚ますであろう件の子猫の衣装。
思わず後退ってしまうが、ガシッと手を捕まれ逃げられない。



「僕より優姫の方が似合うよ」
「……まだ根に持ってるんですか?」
「そんなことはないよ」

そうにこやかに言いますけれどおにいさま?
絶対根に持ってますよね!?
だっておにいさまから感じる雰囲気が、とてつもなく怖い。

「Trick or Treat…だよ、優姫」
「……おにいさまの意地悪っ」


何のことかな?
君がお菓子持ってるなら僕の悪戯は無効になるんだよ。
持ってるなら、ほら。
って言いますけれど私がお菓子持ってないの分かってるくせに…。


「おにいさま!Trick or Treat」
「はい、どうぞ?」

捕まれてない反対側の手にお菓子を握らされてしまう。
つまり、おにいさまに私から悪戯は出来ないわけで…。
タラリと冷や汗が伝う。



さぁ、僕の部屋に行こうか…
と意味ありげな言葉を紡ぎながら言う枢に優姫は抵抗する術を持たず、連れて行かれるのだった。



そして。

いやああああーー!

おにいさまの変態っー!!




数分後、枢の部屋から優姫の悲鳴が上がり、
屋敷にいたメイドたちが何事かと首を傾げたが真相は知るよしもない。



ハロウィンの悪戯
可愛いよ?僕の優姫


*end*