私だけのおにいさま

“枢おにいさま”

私が貴方のことをそう呼ぶのを嫌がられる。
おとうさまとおかあさま達のように呼び捨てで呼んで欲しいのだと――

私だって貴方のこと戸惑いもなく“枢”って呼び捨てで呼べたらどんなに良いか。
でも、おにいさま?
“おにいさま”と言う呼び方も特別だと思いませんか?
私のおにいさまは貴方だけ。
“枢おにいさま”と呼べるのはただ一人私だけなんです。


「だから、せめてあと少しだけでもいいんです。枢おにいさまと呼びたい」


人間として生きてた頃、貴方をひとりにしてしまった私の罪。
簡単に償える訳はないけど、それでも残されたたったひとりの家族だから。
それを実感したい。
家族としての温もりが欲しい。


「そうだね…もう家族は優姫だけだ」
「そう、です…だから……」
「でも優姫?時が来たら必ず僕のこと“枢”って呼んで欲しいな」
「おにいさま……はい」


いつか必ずおにいさまのこと必ず枢って呼びます。
それまでは、貴方の優しさに甘えさせてください。
たったひとりの私のおにいさま――






「で?結局、説得失敗だったんだ」
「そうだよ。
優姫におにいさまは僕だけだからって言われたら無理に枢と呼ばせられないんだ」

“貴方のこと、枢おにいさまと呼べるのは私だけだから”
確かに優姫の言う通り、僕のことおにいさまと呼べるのは君だけ。
でも…それは僕が君についている嘘のひとつ――

本当の兄妹じゃないと知ってしまったら君はどうする?
君とは幾千幾万と違う永きを生きた玖蘭の始祖なんだ――

そういえたらどんなに…
だけど言えずにいるのは君を失ってしまうのが怖いからなのかもしれない。

僕が見つけた
たったひとりの、愛しい子を。


「だから、今は枢おにいさまで我慢するしかないよ」
「でも優姫ちゃん、夜会のとき君のこと“枢”って呼んでたね」


あれ、君の仕業でしょ?
と拓麻は言う。


「うん。せめて夜会のときくらいは僕の些細な我が侭聞いて欲しいから」
「そ、そう…
まぁ何にしろ優姫ちゃんの方からすすんで枢って呼んでもらえるようになると良いね」
「ああ、そうだね」


それはそんなに遠くない未来だと思いたいよ。
ねぇ、優姫?


*end*