二つの鎖
玖蘭の屋敷に来て一年近く経った頃、私は相変わらず牙をたてて血を啜る事が出来ずにいた。
おにいさまから血をもらっては居るけど、それは甘やかされてだ。
私は甘やかされなければ、きっと血を啜るなんて出来てない。
このままで言いとは決して思ってないけど、どうしても出来ずにいて…
でもいつまでも甘え続けるわけにはいかないなんて、分かってるつもり。
おにいさまと零のこと。
未だに零のことを断ち切れてない私は、おにいさまの言うように餓えを完全に満たすなんて無理。
それでも…ヴァンパイアとして、おにいさまと共に生きると決めたなら迷う必要は有るのだろうか―――
「私は……」
気がつけば、私は自らの手首に牙をたてていた。
「……………………痛い」
自らの血を啜るも、飢えがなくなるなんて有り得なくて、ただ痛みだけが残っていて――
そんな時に、おにいさまの匂いがした気がして私は匂いのする場所までフラフラと歩いて行った。
当然ながら、藍堂センパイに見つかって話していたらおにいさまが帰って来られて、
いつものように出迎えの挨拶を交わす。
そして、おにいさまにも自分の手首に牙をたてた事を気付かれていた。
【ヴァンパイアは愛する人の血でしか飢えを満たせない】
おにいさまが、いつか言ってた言葉が重く私にのし掛かる。
おにいさまの血だけで、飢えを完全に満たせるならどんなに良いだろう。
零の所に繋がったままの私の心が切れてしまえば、私はおにいさまだけなのに…――
それが出来ない私は、どうすればいいの?
それでも…私はおにいさまから離れたくはない。
離れるなんて出来ないもの。
「おにいさまの傍にずっと居たいと思う私は、我が儘ですか?」
「優姫…そんなことは無いよ」
そう言っておにいさまは微笑むけれど…
私は自分で言っておいて納得出来ずにいた
零と訣別したはずだったのに離れれば離れるほど時間が経てば経つほどに己が心にある二つの存在。
後悔ばかりが押し寄せる。
「おにいさまに…私、本当に甘やかされてますよね…」
「優姫……?」
「私の飢えは完全に満たせません。だけど、いつか…」
零とのこと決着をつけ、二つある想いを一つにしたい。
心を一つに…
でも、今の私じゃ
それはまだ出来ないから…
「クスッ…良いよ、優姫」
「……おにいさま」
手を引かれて、入った部屋で私は玖蘭の屋敷に来て初めておにいさまの首筋に牙を突き立てて、血を啜った。
恋い焦がれたヒトの血は甘く私を満たしてくれたけれど、完全にではない。
血を啜りながら、私は想いを馳せる。
いつか己の二つに繋がれた心の鎖を断ち切り、飢えを完全に満たせますようにと……微かな願いを込めて…。
*end*