夏期休暇 of 初日

夏期休暇初日。玖蘭家をあるモノの存在が騒がせた。
それは…――

「ねぇ、ねぇ、枢と優姫の身体が入れ替わってたんですって?」
「ぇ…お、おかあさま…どうしてそれを」
「………」

唐突に告げられた言葉に驚く優姫と、一気に纏う空気が悪くなり不機嫌になる枢。
あの一件は、枢にとって最も思い出したくないものだからだ。

「枢の泣いている姿なんて、滅多に見られるものじゃないから新鮮だわ」
「!?……なっ」
「あっ……」

ぴらり…
微かな音をたてて枢と優姫の目の前に出されたのは
枢の身体になった優姫が泣いている姿の写真。

優姫は思い出したのか顔を赤らめているが
決して嫌な部類のものでは無いからか、さして何も反論しない。
が、枢にとってはそのままにしておける問題でもなく、
反論せざるを得ない問題。
そもそも何故この写真が玖蘭家に…
しかも母の手元に有るのか分からない。

レアな枢の姿をカメラで写真におさめようとした藍堂は
仕置きの後にカメラを没収し、跡形もなく処分した。
だから、あの時の写真が残ってるはずなんてあり得ないはず…

「何故、そのようなものが有るのですか?」
「うふふっ…灰閻から貰ったのよ。ね、悠?」
「……そうだね、樹里」

樹里の問いかけに今まで黙って成り行きを見守っていた悠が静かに口を開く。
やや苦笑気味なのは仕方ないのかもしれないが…。

「え、それ理事長が撮ったんだ…」
「そうよ〜よく撮れてるでしょう。ほら、これなんか」
と母は次々に他の写真もテーブルの上に置いていく。

並べられた写真は枢だけでなく、優姫の写真も枢に負けず撮られていた。
一体、いつの間にこんなに撮ったんだろうと言うくらいの量だ。
自分の知らない間に写真を撮られていた事に少しばかり理事長に怒りを感じたものの、
見ているうちにそんなのは直ぐに消えてしまい樹里と共に騒ぎながら写真を眺める始末。
対して枢はと言えば……

「……黒主理事長……が……そーか…そーか……」
「…………か、枢」

先程よりも更に黒いオーラを纏いながら、ひとりごとを小さく呟く。
無論、騒いでる樹里や優姫は聞こえてないが
近くにいた悠には充分に聞こえており、顔が引き攣っている。

「お父様…」
「な……なんだい?」
「少し急用を思い出しましたので出かけて来ます」
「あ、ああ…分かった…行ってらっしゃい」

目が笑ってない枢を見送る悠。
普段ならば笑って悠も見送るのだが、枢の纏う黒い空気と、
何処へ向かい何をしようとしているのか分かってしまい笑って見送れなかったのだ。
いや…それよりも止められ無かった自分も悪いのだろうか…
直後、屋敷の外にある大木が何故か真っ二つに折れたのを
窓ガラス越しに悠は確かに見てしまった。

枢…ものに八つ当たりするのは…と思うものの決して口には出せない。
部屋の中では、そんなことが起きたなんて
知らない樹里と優姫がまだ写真を眺めながら、あれこれと楽しく話している。
それを見守りつつも悠は溜め息を吐く他に行き場のない気持ちの
整理をつける方法を見出せなかった。