であい

<拓麻視点>

優姫ちゃんが居なくなっちゃったんだ……
いや、目を離した僕にも責任が有るんだけど……

こんなこと枢に知られたら間違いなく僕…こ、殺されそう。
その枢は、元老院のお爺様方に呼ばれて出かけてるんだ…

それで、『僕が居ない間、優姫のことよろしくね』って言われて、
任せてよ枢と言った僕は、どうすれば良いんだろう…
ものの数時間で、こうなっちゃったよ。

いやいや、ここは優姫ちゃんを探すべきだよね!
何としても枢が帰って来る前に。
じゃなきゃ、僕の身が危ない。
そう心の中で呟くと拓麻は、真っ青な顔をしたまま月の寮を出た。

もう月の寮は、全て探した。
それで見つからないならば、月の寮にはいないと言うこと。
優姫ちゃんが5歳児になってしまったことは、外部に知られたら困る。
特に人間…普通科の生徒に。

ギィ…と音をたて、扉が開けば、太陽の光が身体を刺す。
ヴァンパイアにとって太陽の光は眩しい…
それは優姫ちゃんにも言えること。
知らないはずは、ない。
それなのに何故、優姫ちゃんは、こんな太陽の下へ出ていったのだろう。

<拓麻視点end>


太陽が燦燦としている時間。
ヴァンパイアである自分は本来ならば例に漏れず眠りの中と言うのに、
何故か今日は思うように寝付けず目が覚めた。
おにいさまは出かけてるみたいで、居なかった。
部屋を出て暫く歩いていると、拓ちゃんにであった。

拓ちゃん…
彼は、おにいさまと一番仲がいいヴァンパイアみたい。
そしてヴァンパイアらしからぬヴァンパイア……に見えるの。

「優姫ちゃん…あれ?どうしたのかな…まだお昼だよ」
「うん……ちょっと…お散歩」
「へ?ダメだよ、優姫ちゃん。ちゃんと寝なきゃ」

僕が枢に叱られちゃう…だとかなんとか独り言のように壁に向かって呟く拓ちゃん…
変なの…

「拓ちゃん……?」
「ああ…枢のお仕置きは怖いんだよ……本当に……」

うーん…話しかけても聞こえてないみたい。
勝手に出ちゃおうかな…。

「じゃあね、拓ちゃん」
と、優姫は未だに独り言を呟く拓麻に聞こえてないが言うと
その場所から離れ、月の寮を出ていく。
拓麻が優姫が居ないことに気付き大慌てになるのは、それから10分後のこと。


*****


太陽の光が降り注ぐ。
はっきり言って眩しい。
やっぱりこの時間に散歩は向いてないから戻ろうかなと優姫が思ったとき、
視界に入ったのは厩舎。
覗いても誰もいない。
色んな馬が飼育されてる。

優姫は迷いもない足取りで、厩舎の中を歩く。
そして、白い馬の前に来たときその馬と目があった。

近付き撫でると馬は大人しく撫でられながら、
時折心地よさそうな鳴き声を発しながら優姫に身を任せる。

本来、ヴァンパイアは草食動物に嫌われているんだけど…
と、ここに優姫以外のヴァンパイアが居たなら間違いなく思っただろう。

しかし残念ながら優姫以外のヴァンパイアは居ない。
ヴァンパイアと馬の奇妙な馴れ合いは、ある人物が来るまで続けられた。

「お前……ヴァンパイアだな」
「ほぇ?」

銀髪の男は、血薔薇の銃を構えると優姫に向けた。
幼女から漂う気配がヴァンパイア――しかも純血種の気配だったからだ。

でも今の優姫は5歳。
当然ながらヴァンパイアハンターのことも、
ヴァンパイアを傷付ける武器があることも知らない。
無垢な瞳を銀髪の男に向ける。

「何故、純血のヴァンパイアがこんなところにいる?誰だ――お前は」
「私のこと?私はくらん ゆうき≠セよ。あなたは?」
「俺は…錐生零だ」

どうして答えたのか零には分からない。
純血種の他のヴァンパイアを従える力を使われた訳でも無いのに。
いや、使われたとしても零はヴァンパイアでは無い人間
――ハンターなのだから効く筈もない。
ただ、何故か分からないが、言葉が口をついて出た。

「玖蘭優姫だと……?」

確かにこの学園の夜間部には玖蘭優姫と言う純血種のヴァンパイアがいる。
が、彼女はこのような小さな幼女では無かったはず。
どういうことか問いただそうとしたとき、優姫とは別に漂ってきた純血種の気配。

「ぜろくん?…………ぁ」

優姫もそれに気付いたのか
気配のする方を向く。
紛れもないこの気配は…

「かなめおにいさま!」
「優姫……勝手に寮から出たらだめだよ。みんな心配してる」
「ごめんなさい……」
「錐生君だったかな?……優姫が迷惑をかけたみたいだね…
でも優姫に血薔薇の銃を向けるなんて…許さないよ」

本当は八つ裂きにしたいけれど、ここは学園内だし、
何より優姫が居るからしないよ……と黒いオーラを隠すことなく零にいい放つ枢。
もちろん言葉の中盤以降は零にだけ聞こえる声でだが。

「優姫、おいで。帰るよ」
「はい!おにいさま。…………あ、ぜろくん」
「零でいい……なんだ?」
「あのね…あのおうまさん何て名前?」
「リリィ…白リリィ号…」
「ありがとう。えっと……リリィまたね。ぜろもね!」

優姫の言葉にリリィは小さな声を発しながら、尻尾をふった。
それを見た優姫は笑顔で手をふると、枢に連れられて厩舎を後にした。

「珍しいな…リリィ」



*****


月の寮。
枢に連れられて戻ってきた優姫は、月の寮の前に立っている拓麻に
「優姫ちゃん〜どこ行ってたの!?心配したんだよ〜」
と青ざめた顔をして抱きつかれたのである。

「ごめんね…拓ちゃん」

謝罪しながら優姫も拓麻にギュッと抱きつく
が、それも長くは続かなかった。
優姫の横から漂う暗黒のオーラを発する御仁によって。

「一条…僕の優姫に何をしてるの?」
「あ……ご、ごめん」
「優姫もだよ。一条に抱きつかなくていいから。良いね?」
「うん……おにいさま」

意味は分からない優姫だったが、大好きな枢からの言葉だったために素直に頷く。

「これ以上、外にいるのは辛いだろう。戻って休もう」

優姫を月の寮の扉の中に入れながら、
ふと枢が思い出したように拓麻の方を振り返りながら言う。
その言葉が意味するのは決まりきっている。

「ああ、一条……君には話したいことが有るんだ。
優姫が寝たら僕の部屋に来てもらって良いかな」
「…………うん……後で行くよ」

おやすみ……
と、虚しく拓麻の声が響いた。

それから数時間後、目覚めた優姫は元通りの身体に戻ってましたとさ。
ただ、あのあと枢が拓麻に言った話の意味も
そのような会話が取り交わされていた事も知らず
元に戻れた事を純粋に喜んだのだ…―――