パフェ騒動

昼頃、ヴァンパイアは本来ならば眠りにつき
夢の中にいるはずの時間帯に拓麻の部屋を訪れる者がいた。

「拓麻さん、拓麻さん!」
「優姫ちゃん?え、どうしたの?」

あいにく支葵は仕事で部屋におらず、扉を開いた拓麻は
優姫の来訪に目を見開くも、すぐにいつも通りの笑みを浮かべ優姫を招き入れる。
促されるまま、優姫はソファーに腰かけた。

「おにいさまには内緒で来たんです。あの!拓麻さんにお願いがあって!」
「なんだい?優姫ちゃんからのお願いなら聞いてあげるよ」
「ありがとうございます。あのね…先日テレビでパフェ見たの。美味しそうだから、それで…」
と、視線を机に落とす優姫に、何を言わんとしているのか察しがつき、
「つまり、パフェが食べたいんだ?」
「は、はい」
「でも何で枢には内緒なの?」
「だって…おにいさま甘いのあんまりお好きじゃないと思うし
……それに…おにいさまと一緒に居たら目立っちゃう…」

だからおにいさまが寝ている時間帯に抜け出して食べに行きたいのだと言う優姫。

「んー…それくらいなら御安い御用だよ。僕に任せてよ、優姫ちゃん」
「ありがとう…拓麻さん」
「…優姫ちゃ〜ん…さん付けと敬語は無しだよ。昔みたく拓ちゃん≠チて呼んでよ」
「う……ありがとう!拓ちゃん…」

促されて優姫は昔――それも6歳くらいに初めて拓麻にあった時から呼んでいる
親しみを込めた名前で呼び直すと拓麻は嬉しげに頬を緩ませる。

「じゃあ、枢にバレる前に行こうか」

こうして優姫は拓麻に連れられて、その日初めて喫茶店へとパフェを食べに行くことになった。

―――1時間後―――

とある街の喫茶店にて。
目の前に注文した品がきた瞬間から、キラキラ瞳を輝かす優姫。

スプーンをとり、パフェに乗っているアイスを一口食べる。
独特の冷たい食感と甘い味に、ふわふわしそうなくらい――。

「うわぁ〜美味しい!ね、拓ちゃん」
「そうだね〜」

反対の席に座る拓麻もまた、パフェを注文しており、
仲良く食べる姿は端からみれば恋人同士のよう。
甘い雰囲気が漂う。
だからこそ、二人は忘れていたのだ。
枢の存在を。

―――その頃―――

黒主学園、月の寮。

「ねぇ…藍堂たち、優姫を見なかった?」
「え……ゆ、優姫様?見ておりません」

突然の来訪に驚きつつも、尊敬している枢の来訪で
ぱあっと輝く笑顔で喜びを現す藍堂だったが、突如とした漂う殺気にヒッと震えた。

ルームメイトであり、従兄弟である架院は、それを見てやれやれと溜め息。

「そう……一条も居ないみたいだし、二人とも何処に行ったんだろうね…」
「すぐに探します」
「頼むよ、架院」

じゃ…と去る枢。
それを見送る藍堂と架院。
直後、藍堂の背後にあった壁に亀裂が入ったのを目にして
再び震え上がったのは言うまでもない。

「おいおい…寮長かなり怒ってるな」


そうとは知らない優姫と拓麻はパフェを食べてご満悦の様子で、
車に乗り黒主学園への帰路につく。

車に乗って、20分。
不意に拓麻の携帯電話が鳴り響く。

「架院?どしたの?」
「副寮長…今どこににいるんですか。優姫様はご一緒ですか?
玖蘭寮長が荒れ狂ってんで一緒なら早く帰って来て下さい」

架院にしては珍しく、用件を矢継ぎ早に言うと返事を待たずに切った。
拓麻は、切れた携帯電話を眺め…顔色が真っ青になる。

「………………」
「拓ちゃん?」
「…枢にバレたみたい」
「ぇ……ええっ!?」

告げられた言葉に、どうしようと狼狽える優姫だが、
無情にも車は黒主学園の校門前に停車。
既に校門前にいる枢。
車から降りると、身体中にひしひしと感じる凍てつくような視線に
思わず優姫は拓麻に抱きついてしまう。

それにより、場の空気が更に五度下がり、
拓麻は枢から殺気の籠った視線を向けられ慌てて優姫を放すも時すでに遅し。

「優姫、僕に黙って何処に行ってたの?」
「えっと…それはその……」
「話をする必要が有るよね。ああ…一条、君も後で部屋においで」
「わ、分かった…、…かな…め」

拓麻は、そう答えるのが精一杯だった。
枢は優姫の手を取り、月の寮の自分の部屋に向かう。


トサッ…
ベッドに押し倒された優姫は、
見下ろしてくるダークレッドの瞳に知らぬ存ぜぬを通せるなんて出来なくて…

「パフェが食べたかったの…だからお願いして連れて行って貰ったの。
勝手に出て行っちゃってごめんなさい、おにいさま」
「そう…でもね、優姫。パフェが食べたいなら僕に言って?
優姫の願いならすぐに用意してあげるから…」

でもそれより先にお仕置きしなきゃならないかな…
と独り言のように呟く枢に優姫は聞かなかった事にしたい気持ちに駆られた。

その日の夜間部の授業は当然の如く休講になり、
優姫は翌夕まで部屋から出る事が出来なかった。

翌々日、月の寮には全国から取り寄せたパフェを美味しそうに食べる優姫と
それを愛おしげに見る枢の姿があったとか。

それは枢に言い渡されて拓麻が一条グループのコネやら何やらを使い
全国のパフェを取り寄せた品だが、優姫が知るはずも無かった。