玖蘭の姫

食事後、両親から告げられた言葉に優姫は瞳を瞬かす。

「黒主学園?」
「そうよ。枢お兄様も通ってる学校。今年から優姫も行くのよ」
「…………はい」
「優姫?何か心配事でもあるのかい?」
「い、いえ…おとうさま、おかあさま。何も有りません」

慌てて手を左右に振って否定する優姫に
親である悠と樹里は顔を見合わせた。
昔は、あんなに枢の傍にベッタリだったと言うのに
成長するに連れて兄離れしてきたように思える。
それでも、枢の話題になれば嬉しそうにするから兄離れ…は、ないと願いたい。

優姫は、枢の妹であり許嫁。
去年、元老院を経由した夜会で枢との婚約を正式に発表したばかりなのだから。

「黒主学園に行くのが嫌とかじゃ無いんですけど、
学園に行くとおとうさまやおかあさまに会えなくなっちゃうから寂しいなと思って…
それに李土おじさまにも……」
「ゆ、優姫……もしかして枢より…」


樹里が李土おじさま≠ニ言う優姫の言葉に若干震えながら聞く。
隣にいる悠は、微笑んでは居るけど瞳は笑っていない。

優姫は知らないのだ。
過去、李土が何をしでかしたのかを…―――
それは悠と樹里の間に生まれた最初の子が関係している……
優姫は生まれているはずもない時代の話だから
知らないのも当然と言えば当然。
そのこともあって、悠、樹里と李土の仲は決して良くなかった。
優姫も最初の子のように襲って来るだろうと思っていたのだけど、
どういう訳か李土は優姫を溺愛しているのだ。

当然面白くないのは枢だ。
李土と優姫が楽しそうに話をしてる姿を見るたび、
枢からは氷点下のオーラが滲み出し、周囲のものが一瞬にして粉々になるくらい。
それでいて、李土に接触させないよう優姫を腕の中に閉じ込める。
李土は李土で枢から優姫を奪い取ろうとしている訳で。

どっちもどっち…
似た者同士だと、その光景を見るたびに悠と樹里は思ったものだ。
枢が優姫より先に黒主学園に入るまでは…―――

「え、だって、李土おじさま凄く優しいし話相手にもなってくれたんです」
「そ、そう……」

相槌を打つも、樹里の顔色は悪い。
しかし、話ている優姫は母親の顔色が悪いとか気付かない。
気付いたのは悠だけだ。

「じゅ、樹里…大丈夫かい?」
「え、ええ…だけど、このことがもしも枢の耳に入れば、ただじゃ済まされないわ」
「そうだね……。優姫」
「はい?おとうさま何ですか?」
「李土おじさまのこと枢の前では言うんじゃないよ?」
「どうしてですか??」
「どうしてもだよ。枢の為だと思って言わないように」
「…おにいさま?……は、はい…分かりました」

理由は分からない優姫だったが、枢のためと言われれば
頷かずには居られなくて…流されるまま頷いた。
悠と樹里は、それを見てホッと安堵したのは言うまでもない。

それから、一週間後。
優姫は、悠と樹里、そして李土に見送られ
黒塗りの車に乗って黒主学園へと向かった。

悠と樹里は、その場に李土が居なければ、笑顔で見送れたのだが…
と言う本音を隠しつつ……兄に問うた。

「お兄様…何故ここにいらっしゃるんですか?」
「優姫が学園に入るんだろう?見送りに来たまでだ」
「(悠……お兄様に優姫が黒主学園に入ること仰ったの?)」
「(いや、僕は言ってない。知らないはずなんだけど……)」

ならば、何故李土は知っているのだろう。
彼等は知らない。
優姫が予め李土に黒主学園の夜間部に入学する事を話していたなんて…。

この先、また何か問題が起きそうな気がして
胃がキリキリと痛む両親の姿があった。