キス警報発令中!?
目の前の惨劇を見れば、誰しも目を背けたくなる…
そんな現状が広がっていた。
誰が想像したであろう。
優姫がアルコールが入るとキス魔になるなんて―――
お酒に弱いことくらいは想像出来たとしてもさすがにこれは、ね?
事の始まりは優姫の誕生日。
豪華に並ぶ美味しそうな料理に、誕生日ケーキ。そして夜間部生徒たち。
誕生日プレゼントは当然の如く実家からも届けられていた。
ついでにいえば李土からも届けられていたが、
枢が即刻処分したのは言うまでもなく。
それを省けば楽しい誕生日パーティーだし、何ら問題はないはずなのだが
拓麻から勧められたワインを少量飲んだ事がすべてのはじまりだった。
「優姫、部屋で休もう…ね?」
「やりゃ…優姫まりゃここいりゅ」
枢の膝の上に乗ったままキスしながら優姫は言う。
頬は紅潮し、やや涙目。
しかもいつもなら自らすすんでキスなんてしてこない優姫が
積極的にするのだから枢にとっては嬉しいが。
問題は枢と優姫以外にも人がいる…と言うことだろう。
「……枢、そんなに睨まないでよ」
優姫以外に向けられる枢からの、視線だけで殺されそうな睨み。
それは優姫を見るなと無言の言葉。
見たら最後、枢様に殺される!!
夜間部生徒たちの心情は皆同じ事を考えており、
無理矢理そらされている視線のなか拓麻だけが声をかけていた。
まさしく勇者……かもしれない。
「一条」
「な、なに?枢」
「……後片付け頼めるかな」
「う、うん…」
それだけ言うと優姫を何とか立たせ自分も立ち上がり、部屋へ連れて帰ろうとした。
だがここで…
ふらふらとした足取りで枢から離れ拓麻に近づく優姫。
「ゆ、優姫(ちゃん)?」
ふたりの声が重なるが優姫は答えず、すっと拓麻の背に手を伸ばして
目を見開く周囲を他所に…
ちゅっ
「「「…………」」」
あろうことか拓麻にキスをした優姫。
直後、漂う尋常ではない黒い気配。
言わずもがな発生源はあの人。
優姫は、それには気付かずキスをし終わると拓麻から離れて行く。
「一条……」
「ひっ…枢。ちょ、落ち着いて…」
「無理だよ。許せないな」
僕じゃなくて優姫ちゃんからキスしてきたんだよ!?
そう弁解するもそれが更に枢の逆鱗に触れたらしく。
「一条さん、それ禁句…」
「拓麻様っ」
支葵と瑠佳の声も虚しく、拓麻に裁きのカウントダウンが始まる。
「優姫からキスなんてするはずないよ。一条…君、酔って幻覚が見えてるんじゃないかな」
僕が目をさまさせてあげるよ
「ぎゃああああーー!!」
慌てて駆け寄る瑠佳たちを他所に枢の視線は自然と優姫に向く。
優姫は何故か藍堂の所にいて、拓麻同様にキスをしていた。
パーティー会場が屍の山と化すのは時間の問題…になるかもしれない。
「藍堂、君も仕置きされたいんだね」
「え!?か、かかか…枢様っ!!僕じゃ…」
優姫様がっ!!と拓麻とあまり変わらない発言をする藍堂。
結果は当然ながら見えており、バシッと頬を平手打ちされるのであった。
「おいおい…英、大丈夫か…?」
「…………あ、ああ」
「架院、君もかな?」
「い、いえ…俺は何もされてません」
「そう…」
キスしてないなら用はないよ。
枢はそう言うなり、またどこぞへと行こうとして居る優姫を
無理矢理抱き上げるとパーティー会場を後にした。
会場を出る際に、枢は一瞬振り向くと
「みんな、今日のことは一秒でもはやく忘れるんだよ?」
と言い残して。
夜間部生徒たちは、言葉にする勇気もなく皆一様に必死に頷くだけ。
後に残ったのは緊張の糸が途切れその場に座り込む夜間部生徒たちと、
原型が分からなくなってしまったパーティー会場跡地のみ。
“優姫様には何があってもアルコールを飲ませてはならない”
と皆の心に深く刻まれた。
*****
部屋に戻ると枢は優姫をベッドに降ろすと、グラスに入れた水を渡す。
「ほら、優姫」
「おにい、さま…」
優姫は手を伸ばし枢からグラスを受け取ろうとするが、
酔った状態では身体に力が入るはずもなく
パシャ…――
水が思いっきりかかり、ドレスは元より
下着類が透け透けになったまま枢の視界にうつった。
「優……姫」
「…………んっ」
そんなあられもない優姫の姿に枢の理性が保たれたまま
――と言うのは無理な話。
グラスを机に置くと、優姫をベッドへ押し倒しキスをする。
いつもより格段に激しいそれ。
「おに…さま…ぁっ…しゅき…」
「優姫、僕を煽ってるの?」
問いながらも枢は今の優姫には何を言っても理解してもらえないと嘆息する。
しかし正常な状態であったとして、果たして優姫が理解出来るかも謎だ。
「おにいさま……欲しいっ」
涙ながらに枢を求める優姫。
このまま優姫の望むままにするのは、至って簡単だが起きればきっと忘れているだろう。
そんな優姫に、理性を投げ捨て欲望のままにしても良いのだろうか。
「君は時に残酷…だよ」
本当に…。
クスっと自嘲気味に枢は笑った。
*****
あれからどうなったかと言うと
翌日。
ベッドの周囲には互いの衣服が落ちており、互いに裸のまま抱き合って眠っていた…
と言う状況が、昨晩あれから何があったかを物語っていた。
☆おまけ☆
その日、仕事から帰宅した莉磨を待ち受けていたのは
月の寮で生気が抜け、屍と化したかのような夜間部生徒たち。
「支葵、何かあったの?…特に一条さんと藍堂さん」
「うん、まあ…」
でも莉磨いない方がよかったよ。その方が安全。
と言う支葵に莉磨は「はぁ?」と首を傾げるばかり。
だが、あえて教えようと思ったものはいないため莉磨の疑問は晴れること無かった。
その方が幸せ…なのかもね。
*end*