吸血行為

二つの瞳が不安げに揺れ、枢を見下ろす。
ここは、玖蘭の屋敷。
人の外見で言えば初等部高学年位だろうか。
優姫は、ソファーで横になっている枢を跨ぐように上に乗っていて…

「優姫…僕の首筋にその生えた牙を立てれば良いんだよ」
「でも…おにいさま」
「血を啜る事は僕達ヴァンパイアにとっては必要不可欠なもの…戸惑わないで」

だから牙を立てて…血を啜りなさい…と。
ヴァンパイアにとって吸血行為は、愛情を現す行為の一つ。
別段、死にはしないが、血を啜る事を拒み続ければ何れ喉の渇きが増し血に飢える。
優姫には、そこまでして我慢して欲しくないんだ…。

スルッ…
苦笑しながら、枢は優姫の目の前に白い首筋を晒す。

「…おにいさま…」
「ほら、飲んで…」
「…………っ」

その首筋を首を横にふりながら、ずっと見ていた優姫だったが、
ドクン…
急に鼓動が高まり…枢の首筋に視線が行ってしまう。
それは愛しい存在を目の前にして芽生えた吸血衝動。
ひどく自然なこと。
優姫は、まるで操られた人形のように枢の首筋に舌を這わし…
そして…次の瞬間―――

「んっ……」

ジュル…――
枢の首筋に牙をたて初めて血を啜る優姫。

「そう…良くできたね」

枢は優姫の髪を愛し気に梳きながら妹であり
将来、妻になる子の初めての吸血行為を受け入れていた。

「……優姫、もう…」
「ぁ…おにいさま…ごめんなさい」
「いや、いいよ…美味しかったかい?」
「うん。ごちそうさま…でした」

血を啜り、先ほどのような吸血衝動はなくなった優姫は、
打ってかわり笑顔を浮かべる。
その笑顔に枢もようやっと安堵の吐息を吐く。

「僕は嬉しいんだ…優姫の糧になれて」

そんな枢と優姫の姿を両親である悠と樹里が離れた場所で見ていて…―――

「ね、だから言ったでしょう?」
「そうだね…僕の杞憂で良かったよ」

この日から優姫は、生気を分けてもらうのではなく、血を分け与えてもらうようになった。
もっとも、優姫が血を啜るのは枢だけで、枢も血を啜るのは優姫だけ。
でも、まだ優姫に牙を立てるのは早いから僕は、もう少し我慢するよ…。
それまで僕は血液錠剤で我慢するよ…

枢が優姫の血を啜るのは優姫が初めて枢の血を啜ってから、三ヶ月後だった。
あんまり長く我慢出来ない
おにいさまでした。


*end*